【要約】
●2025年ノーベル生理学・医学賞は、免疫が自分の組織を攻撃しないよう抑える「末梢性免疫寛容」の発見に貢献した3氏へ授与された。
●制御性T細胞(Treg)は、ほかの免疫細胞の働きを抑え、自己免疫反応や過剰な炎症を防ぐうえで重要な役割を担う。
●Tregを利用した医療は研究・臨床開発が進む一方、美容やプラセンタ製品との直接的な関係を示す十分なエビデンスは、現時点では確認されていない。
※エビデンスを最優先に考えるUTPでは、医学論文や研究資料、学術情報などをもとに、美容と健康に関する信頼性の高い情報をご紹介しています。掲載内容は研究・文献に基づく情報であり、特定の商品・施術による疾病の予防・診断・治療や、有効性・安全性を保証するものではありません。
※※本記事は、免疫学の基礎や研究動向をわかりやすく紹介するため、複雑な仕組みの一部を簡略化して説明しています。また、医療への応用には、基礎研究や臨床試験段階の内容が含まれます。特定の治療法・商品・施術の有効性や安全性を示すものではありません。
2025年ノーベル生理学・医学賞「制御性T細胞(Treg)」について
2025年ノーベル生理学・医学賞は、Mary E. Brunkow(メアリー・E・ブランコウ)氏、Fred Ramsdell(フレッド・ラムズデル)氏、Shimon Sakaguchi(坂口志文)氏の3名へ授与されました。受賞理由は、「末梢性免疫寛容に関する発見」です。
3氏の研究によって、免疫系の働きを抑える制御性T細胞(regulatory T cell:Treg)と、その発生や機能に重要なFOXP3遺伝子への理解が大きく進みました。本記事では、免疫とT細胞の基礎から、受賞につながった発見、医療・美容分野との関係までを整理します。
免疫とは?
私たちの体は、日々ウイルスや細菌などの外敵にさらされています。
これらを見つけて排除する防衛システムが「免疫」です。免疫細胞は外敵を見つけると攻撃し、体を守ります。
しかし、この攻撃が「自分自身」に向かってしまうと「自己免疫疾患」が起こります。
(例:リウマチ、橋本病、Ⅰ型糖尿病など)。
免疫は「攻撃」と「抑制」のバランスが取れて初めて健康を保ちます。
今回のノーベル賞は、この「抑制」を担う細胞=制御性T細胞(Treg)を解明した研究に贈られました。
免疫細胞とT細胞
免疫には、侵入者全般を即時攻撃する「自然免疫」と、一度出会った敵を記憶して次回以降の侵入に
的確に対応する「獲得免疫」というものがあります。それぞれ対応する免疫細胞がいるので以下に示します。
・自然免疫(先天的防御):マクロファージ、好中球、樹状細胞、NK細胞
・獲得免疫(後天的防御):T細胞、B細胞
T細胞は胸腺(Thymus:サイマスと読みます)で教育されて成熟するため “T” 細胞と呼ばれます。 T細胞は抗原(病原体などの敵)を自分で直接識別することはできません。 代わりに、樹状細胞などから「敵の情報(抗原の断片)」をもらって判断しています。
※ちなみにB細胞は骨髄(Bone marrow)で成熟するためBの名が付きます。
B細胞は敵を見つけたら抗体(免疫グロブリン)を使って敵を攻撃します。

※表面マーカーは細胞を識別する手掛かりです。ただし、CD25は活性化したT細胞にも発現するため、CD25だけでTregを完全に特定できるわけではありません。
T細胞が成熟するまで
免疫細胞のうち、T細胞は「司令塔」や「調整役」として重要な役割を果たします。 T細胞は骨髄で作られた未熟な細胞(T細胞前駆細胞)が「胸腺」で教育され、成熟します。
胸腺での教育には2段階あります
1.自分の体を認識できない細胞を排除(正の選択)→抗原を持っている免疫細胞の認識ができるか
2.自分の体を攻撃してしまう細胞を排除(負の選択)
この仕組みを通じて「自分」と「敵」を見分ける能力を身につけたT細胞だけが、血液に送り出されます。 しかし実際には、この選別をすり抜けて“少し自分を攻撃しやすいT細胞”も残ってしまいます。
ここで働くのが「制御性T細胞(Treg)」です。

T細胞の成熟の中で一部の細胞は“制御性T細胞”に分化しています。自己抗原に対する親和性が少し高い、つまり自分への攻撃性が少し高めの細胞は、制御性T細胞として育ち体の中で免疫が過剰になっているT細胞を制御する仕事をしています。
※正の選択、負の選択でのふるいに残った中で、自己抗原への親和性が少し高いものということです。
※図は仕組みを理解するための模式図です。実際のT細胞分化や免疫制御には、複数の細胞、受容体、サイトカイン、組織環境が関わります。
2025年ノーベル生理学・医学賞の発見内容
2025年のノーベル生理学・医学賞は、 坂口志文氏、メアリー・E・ブランコウ氏、フレッド・ラムズデル氏 に授与されました。
彼らの発見は次のようなものでした。
*制御性T細胞の存在の証明
坂口志文教授は1990年代、マウスのT細胞から「CD25+細胞」を取り除くと、自己免疫病が発症することを発見しました。
※CD25+は細胞表面に存在する表札のようなものです。 この細胞こそ、他の免疫細胞の暴走を抑える「制御性T細胞(Treg)」でした。
*FOXP3という「Tregのスイッチ遺伝子」の発見
その後、ブランコウ氏、ラムズデル氏らが「FOXP3」という遺伝子を発見。 この遺伝子が壊れると、Tregが働かなくなり、全身で自己免疫疾患が起こることがわかりました。
つまり FOXP3=免疫のブレーキを司るスイッチ遺伝子 だったということです。
これらの“制御性T細胞”の一連の研究成果が認められて、今回ノーベル賞受賞となりました。
Treg研究から期待される医療への応用
Treg研究を基盤として、免疫反応を強める方向と抑える方向の両面から医療応用が検討されています。
●自己免疫疾患
Tregの数や働きを高め、自己組織への過剰な免疫反応を抑える方法が研究されています。
●臓器移植
Tregを利用して拒絶反応を抑え、移植臓器に対する免疫寛容を促す細胞療法などが研究されています。
●がん
腫瘍周囲のTregが抗腫瘍免疫を弱める場合があるため、その抑制機能を局所的に弱める方法が研究されています。
いずれも、Tregを単純に増減させればよいわけではありません。全身の免疫バランスを崩さず、必要な場所で適切に制御することが重要です。ノーベル賞公式発表では複数の治療法が臨床試験中とされていますが、疾患や方法によって研究段階は異なります。
皮膚・美容分野との関係
皮膚は「外界と体の境界」にある最大の免疫器官です。 皮膚にもT細胞や樹状細胞が存在し、外的刺激や紫外線、ストレスに反応しています。 このとき、炎症を起こす免疫細胞(攻撃側)と、それを抑える制御性T細胞(防御側)のバランスが乱れると、肌荒れ・乾燥・赤み・老化へとつながります。
制御性T細胞の研究は、皮膚免疫のバランスを理解し、「炎症を抑えながら肌を整える」 いわば“免疫美容”の方向性を科学的に裏付けるものとして注目されています。
今後は、
・肌の炎症を「抑制」するではなく「制御」する発想
・スキンマイクロバイオーム(皮膚常在菌)と制御性T細胞を絡めたスキンケア
→免疫を“整える”スキンケアの開発
といった領域に応用が広がると考えられます。
※※皮膚やTregに関する研究には、培養細胞や動物を対象とした基礎研究が含まれます。これらの結果は、人に対する美容効果や、化粧品による効果を確認したものではありません。
プラセンタとの関係は確認途上
プラセンタには免疫調整作用があります。
現時点でプラセンタによる制御性T細胞への作用についてエビデンスはほとんどありませんが、プラセンタが制御性T細胞に何らかの作用を及ぼし、免疫調整をしている可能性もあると考えられます。
今回のノーベル賞の内容は人間の体における「免疫機能」の重要性をお伝えするきっかけになると思います。
健康にも、美容にも、免疫を整えるきっかけとしてプラセンタを活用していただけるよう
お伝えしていきましょう
※※現時点では、プラセンタ製品が人のTregへ直接作用することを示す十分な臨床エビデンスは確認されていません。Tregに関する研究結果を、プラセンタ原料全般や市販製品の効果へそのまま当てはめることはできません。
製作日:2025.10.27
更新日:2026.08.21
監修:株式会社UTP 研究室
参考資料
・The Nobel Prize in Physiology or Medicine 2025 – Press release
・Sakaguchi S, et al. Immunologic self-tolerance maintained by activated T cells expressing IL-2 receptor α-chains (CD25). J Immunol. 1995;155:1151-1164.
・Brunkow ME, et al. Disruption of a new forkhead/winged-helix protein, scurfin, results in the fatal lymphoproliferative disorder of the scurfy mouse. Nat Genet. 2001;27:68-73.
・Hori S, et al. Control of regulatory T cell development by the transcription factor Foxp3. Science. 2003;299:1057-1061.
・Ali N, et al. Regulatory T Cells in Skin Facilitate Epithelial Stem Cell Differentiation. Cell. 2017;169:1119-1129.e11.
エビデンス・研究資料
「2025年ノーベル生理学・医学賞『制御性T細胞(Treg)』について」PDF
詳しくは、PDFをご参照ください。
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